【vol.062】のぼうの城

強者の侮辱にへつらい顔で臨むなら、そのものはすでに男ではない。

強者の侮辱と不当な要求に断固、否を叫ぶものを勇者と呼ぶのなら、紛れもなくこの男は、満座の中でただ一人の男であった。

“のぼうの城”で最もシビれるのがこのシーン。
長親が不当な要求に否と答え、戦いを宣言する場面である。

「武あるものが武なきものを足蹴にし、才あるものが才なき者の鼻面をいいように引き回す。これが人の世か。ならばわしはいやじゃ。わしだけはいやじゃ。」

強き者が強きを呼んで果てしなく強さを増していく一方で、弱き者は際限なく虐げられ、踏みつけにされ、一片の誇りを持つことさえも許されない。

小才のきく者だけがくるくると回る頭でうまく立ち回り、人がましい顔で幅をきかす。

ならば無能で、人が好く、愚直なだけが取り柄の者は、踏み台となったまま死ねというのか。

「それが世の習いと申すなら、このわしは許さん」

長親は決然と言い放った。
その瞬間、成田家臣団は雷に打たれたがごとく一斉に武者面をあげ、戦士の目をぎらりと輝かせた。

2016年 25・26冊目